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札幌地方裁判所小樽支部 昭和34年(ヨ)35号 決定 1959年4月09日

申請人 日鉄鉱業株式会社

被申請人 日鉄鉱業北海道労働組合

主文

被申請人は別紙第一、二目録記載の建物に立ち入つたり、申請人の右建物の使用及び占有を妨害してはならない。

申請人のその余の申請はこれを却下する。

申請費用は被申請人の負担とする。

(注、保証金二〇万円)

理由

第一、申請の趣旨

一、別紙第一乃至第三目録記載の物件に対する被申請人の占有を解き、これを申請人の委任する札幌地方裁判所々属の執行吏にその保管を命ずる。

一、被申請人はその所属する組合員又はその他の者をして右物件に立ち入らしめてはならない。

一、申請人の委任する執行吏は右物件を申請人及び申請人が指定する従業員その他の者をして使用せしめ、又は立ち入らしめなければならない。

一、被申請人は申請人が指定する従業員その他の者が右物件を使用し、又はこれに立ち入ることを妨害し、又は申請人に所属する組合員その他の者をしてこれを妨害させてはならない。

一、申請人の委任する執行吏は右命令の実効を期するため適宜の措置をとらなければならない。

第二、争議行為に至る経過及び現況

一、申請人は石炭、鉄鉱、硫黄、石灰石等の採堀販売等を行う株式会社であつて、北海道には虻田郡京極村字脇方に北海道鉱業所を設け、同鉱業所は北海道鉱業所本部竝びに倶知安、徳舜瞥、仲洞爺、虻田東鹿越等の各鉱山を統轄してその事業を遂行している。一方被申請人は前記各鉱山従業員を以て構成し、企業別連合組織としての日鉄鉱業株式会社労働組合連合会(以下日鉄連と称する)に加盟している。ところで申請人と日鉄連との間において昭和三十四年二月二十六日以降日鉄連の賃金交渉要求書に基き団体交渉中であつたが、日鉄連は同年三月六日付で申請人に対し同月九日の全山全面二十四時間ストライキ(二山を除く)及び同月十日以降無期限部分ストライキを予告し、被申請人は同月九日全山全面二十四時間ストライキ及び同月十日以降(イ)倶知安鉱山では採鉱、水洗部門について、(ロ)徳舜瞥鉱山では褐鉄さく岩、小割、ローダー部門について、(ハ)仲洞爺鉱山ではさく岩、小割、ローダー部門について、(ニ)東鹿越鉱山ではさく岩、積込、運鉱部門についてそれぞれ終業前二時間ストライキ及び超過勤務拒否を敢行した。更に日鉄連は同十四日に至り同月十七日より右時限ストライキを加重することを予告し、被申請人は同月十七日より(イ)倶知安鉱山では採鉱、水洗、運鉱、索道、貨車積部門計五十二名、(ロ)徳舜瞥鉱山では褐鉄さく岩、小割、ローダー、ベルトコンベアー索道部門計二十七名(ハ)仲洞爺鉱山ではさく岩、小割、ローダー、運転部門計十七名の各生産部門についての無期限完全ストライキを実施するに至つたが、右ストライキに参加してない部門の従業員の数は倶知安鉱山においては六十三名、仲洞爺鉱山においは四十五名であつた。ところで申請人は同月十六日日鉄連に対し同月十九日午前七時より前記生産部門に対する部分ストライキが中止される迄倶知安及び仲洞爺両鉱山を作業所閉鎖する旨通告し、更に翌十七日具体的に別紙第一乃至第三目録記載の物件を含む右両鉱山の立入禁止区域を定めて通告し、当該通告は同日頃日鉄連及び被申請人に各到達したが、被申請人組合員はその後申請人の通告した右立入禁止区域内に立入り又は別紙第一、二目録記載の建物にも釘付けの釘を抜いたり、施錠金具の釘を抜く等の方法で内部に立入つて就労している。

以上の事実については当事者間に争ないところである。

二、以上の外当事者双方の提出にかかる疎明資料によれば、

(イ)  鉱山の採堀を営む企業では生産部門とその外の作業部門とは一連的につながつているものであるから、生産部門が長期に亘つて停止すればその他の部門の作業も停止せざるを得なくなるものであるところ、倶知安鉱山においては前記生産部門の五十二名がストライキ参加により爾余の組合員六十三名が、又仲洞爺鉱山においては前記生産部門十七名がストライキ参加により爾余の組合員四十名がそれぞれ就労しても作業をなし得ない結果になる。それにも拘らずこれ等の者に対して、なおかつ申請人は賃金の支払をなさねばならなかつたこと。

(ロ)  申請人は前記立入禁止を通告した区域について、同年三月十九日各物件の周囲に棒抗を建て、繩を張り繞らし各要所要所に立入禁止区域を明示する地図等を記した立札を立て、又建物には厳重に施錠をした外出入口、窓等には釘付けを施し或いは板で釘付けにして容易に外部から立ち入ることができない程度の閉鎖をなしていること。

(ハ)  被申請人は右作業所閉鎖後バール、鉄棒等で釘を抜いて扉や窓を開け、或いは建物の破目板を破壊して内部に立ち入り、その際組合員等は申請人側職員に対しデモ、喚声をあげる等威圧を加え、申請人側において破壊された施錠、釘付等けを夜間補修しておくと、再び翌朝就労に際し右同様の状況の下に破壊して立ち入るなど連日これが繰返されていること、及び右建物内に保管してある機械、器具等を擅に持ち出しこれを用いて申請人側の保安管理者の指揮命令を受けることなく無秩序な状況の下において採鉱現場において強行就労をしているが、右両鉱山における広汎な露天採堀竝びに剥土現場の切羽は高さ四米乃至十米、傾斜四十五度乃至七十度の断崖であり、しかも粘土質の崩壊し易い状況で特に倶知安鉱山においては偶々融雪期にあたり、土滑り、崩壊の危険が大であるため人命、資源、設備等に回復することのできない損害を招来する虞があること、然しながら別紙第三目録記載のうちブルトーザーについては申請人において主要部品を取外したため、その余の物件については送電されないためこれらについては被申請人において擅に運転し得ない状況にあること。

以上の事実が一応認められる。

第三、争議行為の当否及び仮処分の必要性

一、被申請人の前記争議行為の推移、就中生産部門のみの部分ストライキにより申請人に対し全面ストライキと同一の打撃を与え、しかもその上ストライキ不参加者においては通常通りの賃金を要求し得ることにより更に打撃を加えることを目的とする部分ストライキを実施したこと、及びかかる争議行為を申請人において拱手傍観するにおいては鉱山保安上からも人命、設備等に不測の損害も招来しかねない状況にあつたことなどから、これを避けるため申請人は使用者において許された唯一の争議行為としての作業所閉鎖の挙に出たもので、そこには何等攻撃的な要素も看取し得ないし、又前記認定の程度の閉鎖の事実行為があれば作業所閉鎖の成立にも十分であり、右作業所閉鎖には何等違法の点はないから、申請人は被申請人に対し別紙第一乃至第三目録記載の物件についての立入禁止竝びに妨害排除を求め得ること勿論である。

二、ところで前記のとおり作業所閉鎖の連日に亘る被申請人の就労時の実力行使によつて生ずる本件建物等に対する損害、或いは申請人側の保安管理者の指揮命令を離れて無秩序になされる採鉱現場における被申請人側の就労によつて生じ得る人命、資源、設備等に対する回復し難い損害等を考えるときには主文第一項記載の限度において仮処分をなすべき必要があるものと認める。

その余の別紙第三目録記載の物件については部分品の欠缺により、或いは前記仮処分により被申請人において擅に送電し得ないことなどからこれらを使用し得ない状況下にあること、竝びに被申請人において殊更右物件を破壊するがごとき所為に出てこれに損害を加えるとは到底考えられないから必要性なきものとして却下するを相当と認める。

よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 山田近之助 島田稔 片山邦宏)

(別紙)

第一目録

虻田郡京極村字中岳二百七番地

一、木造柾葺平家建休憩所

建坪八坪

同所二百十番地

一、木造亜鉛鍍金鋼板葺平家建休憩所

建坪一坪五合

同所四番地

一、木造亜鉛鍍金鋼板葺平家建九号水洗機上屋

建坪八坪

同所同番地

一、木造亜鉛鍍金鋼板葺平家建十号水洗機上屋

建坪七坪二合五勺

同所同番地

一、木造亜鉛鍍金鋼板葺平家建休憩所

建坪五坪

同所同番地

一、木造亜鉛鍍金鋼板葺平家建ダンプトラツク車庫

建坪四十七坪二合五勺

同所同番地

一、木造亜鉛鍍金鋼板葺平家建休憩所

建坪一坪

同所同番地

一、木造亜鉛鍍金鋼板葺平家建鍛治場

建坪二十九坪

同所同番地

一、木造柾葺平家建木工場

建坪四坪五合

同所同番地

一、木造柾葺平家建休憩所

建坪十六坪

同所同番地

一、木造亜鉛鍍金鋼板葺平家建捲掲機上屋

建坪二坪二合五勺

同所同番地

一、木造亜鉛鍍金鋼板葺平家建鉱務事務所

建坪二十一坪二合五勺

同所同番地

一、木造亜鉛鍍金鋼板葺平家建破砕場

建坪九坪

同所同番地

一、木造亜鉛鍍金鋼板葺平家建山元索道緊張所

建坪百十一坪

同郡同村脇方五百六十七番地

一、木造柾葺平家建索道中継所

建坪四十坪

同所五百七十四番地鉄道用地内

一、木造亜鉛鍍金鋼板葺平家建鉱倉

建坪二百三十三坪

同所同番地同内

一、木造亜鉛鍍金鋼板葺平家建見張所

建坪六坪

同所五百八十番地

一、木造柾葺平家建電工詰所

建坪十一坪五合

同所同番地

一、木造柾葺平家建倉庫

建坪五十五坪五合

同所同番地

一、木造柾葺平家建木工作場

建坪十八坪三合

同所五百八十三番地

一、木造亜鉛鍍金鋼板葺二階建事務所

建坪百二十七坪七合

二階坪九十八坪

の内一階部分のみ

以上

第二目録

有珠郡壮瞥村字仲洞爺五番地の三

一、木造亜鉛鍍金板葺平家建事務所

建坪八十五坪九合五勺

同所同番地の二十七

一、木造亜鉛鍍金鋼板葺平家建物品倉庫

建坪二十二坪五合

同所同番地の二十七

一、木造亜鉛鍍金鋼板葺平家建自動車車庫(ダンプトラツク)

建坪三十三坪

同所同番地の二十七

一、木造亜鉛鍍金鋼板葺平家建自動車車庫(トラツク)

建坪二十一坪

同所同番地の二十七

一、木造亜鉛鍍金鋼板葦平家建受電所

建坪十二坪

同所同番地の二十六

一、木造亜鉛鍍金鋼板葦平家建工作工場

建坪二十七坪

同所同番地の二十四

一、木造亜鍍金鋼板葦平家建貯鉱槽

建坪十二坪五合

同所同番地の二十四

一、木造亜鉛鍍金鋼板葦平家建破砕室

建坪二十一坪三合

同所同番地の二十一

一、木造亜鉛鍍金鋼板葦平家建ガスロコ車庫

建坪二十坪

同所同番地の二十二

一、木造亜鉛鍍金鋼板葦平家建鉱務事務所

建坪十六坪

同所同番地の十九

一、木造亜鉛鍍金鋼板葦平家建鉱員休憩所

建坪十三坪五合

同所七十五番地

一、木造亜鉛鍍金鋼板葦平家建係員詰所及び休憩所

建坪十三坪七合五勺

同所同番地

一、木造亜鉛鍍金鋼板葦平家建圧縮機室

建坪三十四坪

同所七十八番地の三

一、木造亜鉛鍍金鋼板葦平家建圧縮機ポンプ室

建坪一坪五合

同所七十七番地の三

一、木造亜鉛鍍金鋼板葦平家建火薬庫

建坪五坪五合

同所九十七番地の二

一、木造亜鉛鍍金鋼板葦平家建火薬取扱所

建坪一坪

以上

第三目録

虻田郡京極村字脇方

一、電気機関車一台

東芝製十屯車、九十馬力 第二号

虻田郡京極村字中岳

一、電気機関車二台

東芝製六屯車、六十馬力 第四号及び第六号

虻田郡京極村字中岳

一、ブルトーザー一台

小松製D八十、九十五馬力

有珠郡壮瞥村字仲洞爺

一、パワーシヨベル一台

日立製UC6、八十五馬力

デイツパー容量零・六立方米

以上

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